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負け犬女の…

筆者:木本直實氏
★負け犬女のキャッシュフロー大作戦が始まった!
2003年11月から翌年2月の間に、福岡市内にあるマンション2軒のオーナーとなり家賃収入を得る身となった私だが、これから私どうしよう?ここへきて、急に私は立ち止まってしまった。

当初の計画では、あと2軒買って月収25万円を確保し、計4軒のワンルームマンションを担保に融資を受けて、さらに買い増しをしようと考えていた。
ところが調べていくうち、中古のワンルームマンションには担保としての価値はほとんどないということがわかった。となると不動産の買い増しは難しい。しかし、毎月の不労所得が25万円あれば、平日の昼間に何か安定した仕事を見つけて、子どもが独立するまで何とか生活はやっていけるだろう。
今の私は不満を感じる状況ではないはずだが、なぜか、消化不良のような落ち着かない気分だ。本当にその生き方でいいのか?もっと夢を追求しなくていいのか?自問自答した。

キャッシュフローは、計画の半分だけは確保できた。今なら残りの資金を他の事に投入することができる。あと2軒買ってしまったらもう冒険はできなくなる。


2003年9月末に会社を辞め、無職になってからしばらくの間は株式投資に集中していたが、毎日株価とにらめっこしている生活というのはあまり張り合いがないものだ。自分が世界中の誰の役にも立っていない気がする。早く自分がやりたいことを見つけよう。
折しも、酒井順子さんの著書「負け犬の遠吠え」に出会ったのだ。
話題になっていたのでタイトルだけは知っていたが読んで驚いた。
30代の独身女性を自嘲気味に「負け犬」と呼び、そのライフスタイルや考え方を論じているのだが、そこにはまさに数年前まで私が漠然と感じていた不安感がそのまま語られている。
ふと、昔の同僚が何気なく言った一言を思い出した。もう7~8年も前のことだ。
★2軒目のオーナーに
「2軒目探すんですか?」うっしーがあっけに取られている。
「はい。探します。早くキャッシュフローを安定させなくちゃ。」

早速、次の物件を探して現場を見に行く。建物自体は悪くはない。
管理人も常駐している。しかしどこか暗い感じがする。
「どうでしょうね?」と私。
「ぱっとしませんね。」とうっしー。
「ぱっとしないって、どういうことです?」
「この辺りは、道が狭くて曲がりくねって見通しが悪いでしょう?
街灯も少ないから、夜道はかなり暗いですよ。こういう場所、時々あるんですが、僕は好きではありません。」
「なるほど・・・。」私が感じた暗い感じはそれだったのだ。
「じゃ、ここはパスして、次行きましょう。」

次の物件は駅からなんと徒歩10秒。下町のにぎやかな場所にある駅に隣接している。
★大家さんデビュー?
入札書を送ったと思ったら、瞬く間に開札日が来た。午前10時にうっしーが結果を聞きに行ってくれることになっている。
11時15分。やはり駄目だったかとあきらめていた携帯が鳴る。
うっしーからだ。
「おめでとうございます!やりましたよ、落札です!」
「えっ?えっ?本当?落札ですか?」
「本当ですよ。なんと入札件数58件です!1万円差の1位!」

入札件数58は、福岡地裁では、歴代2番目ぐらいの多さらしい。
開札は、教室のような部屋で執行官が前に立って、入札書の封筒を一通ずつハサミで開封して並べていく。そして価額の低いものから順番に、ひとつひとつ読み上げていく。最低売却価額の148万円から延々続いて、490万円、500万円、502万円、ときて、最後に私の5,036,083円だったそうだ。

58人目を読み上げ終った時、場内は「おお~っ」とも「ほお~」ともつかないどよめきが上がったという。
「とにかくこんな経験は初めてです。」興奮覚めやらぬうっしーが言う。

「弥勒菩薩さんの仕業に違いない」。まぐれだとしても、こんな芸当が私にできるはずはない。
★熱意と執着心の値段
初めての入札で一体どんな価格をつければいいのだろう?まずは、現在の家賃から逆算して利回りを計算しよう。競売物件なら利回り14~15%程度見込みたいところだ。
しかし、今回は立地が非常に良いので、入札件数が多くなるはず。
件数が多いということは、高値がつく可能性が高いということでもある。しかも地下鉄が開通すれば地価が上がるはずなので、不動産自体の価値も上がるだろう。それを当て込んで大胆な高値をつける人がいるかも知れない。

利回りの設定が難しく、悩みに悩んだ。利回りというのは利息とは違う。利息は貸したり預けたお金に対して何%つくか?という計算をするが、利回りは、投資したお金が何年で回収できるか?という考え方がもとになっている。つまり、利回り10%なら、投資金額が10年で回収できて、11年目以降に入ってくるお金が全て収益ということになるし、利回り20%なら5年で回収できる。
利回りは、最低10%は欲しいが、高く設定し過ぎると勝てない。
11%にしよう。家賃は56,000円。うち2割はマンションの管理費、修繕積立金や毎年の固定資産税などの経費として差し引いた後の手取り額を11%の利回りでまわすという意味である。そうすると計算式は下記のようになる。
毎月の手取り収入=56,000×0.8=44,800円
年間の手取り収入=44,800×12ヶ月=537,600円
利回り11%でまわす場合の投資金額=
537,600÷0.11=4,887,272.7≠4,887,273円

ということは、私にとっての適正価格は、4,887,273円ということになる。ここまでは誰もが考える利回り計算だ。さてこれからが問題だ。上乗せするか?差し引くか?どちらにしても500万円仕事。
ここまで来たら中途半端なことはしたくない。「この値段で駄目ならしょうがない」と思えるだけの思いを込めたい。
★運命の出会い?
それまで、福岡県といえば明太子しか思い浮かばなかった私だが、改めて競売物件探しをしてみて驚いた。住みやすい町のようだ。

不思議なくらい交通の便が良い。どこからでも20~30分で市内中心部へ行け、仕事も買い物も食事もできる。職住接近の町だ。
地下鉄網が発達しているところは札幌とよく似ている。違うのは、ボイラー室の有無ぐらいか。札幌ではボイラーに関する知識がないことがネックだったが、福岡ならボイラーの心配はしなくていい。福岡市内なら、イザという時は駆けつけることもできる。札幌よりリスクがふたつ少ない。私はやおら乗り気になった。

ふと見た物件に目が留まった。築9年の比較的新しい物件だ。駅から遠いのが難だが、最低売却価額が148万円とは破格の安さだ。新しいのになぜこんなに安いのか?何か欠陥でもあるのだろうか?そうだとしても、競売初挑戦の私には十分だろう。
3点セットを繰返し読んでみる。6階の角部屋。高級住宅街の一画にあり、一部上場企業の社宅として借り上げられている。管理費の滞納もない。非のうちどころがないと言っても良いほどだ。不審な点が全くないことが、却って私を不安にさせた。
何か大事なポイントを見落としているのではないか?という危惧を抱きながら、うっしーに電話してみる。
「今週の642号が良さそうですけど、どう思います?」
「これはいいですね。この辺りは今、地下鉄の工事中で、もうすぐ開通するんです。ひょっとして駅の近くだったらラッキーですよ。よくこんな物件を見つけましたね。」
「じゃあ私、入札します。」
「えっ?!ホントに入札するんですか?」
「冗談だと思ってたんですか?良い物件って言ってたでしょう?」
「いやー言いましたけど…しますか?…ホントに?」
★札幌の物件
「実は今年から、競売物件の情報を、インターネットで手軽に検索できるようになったんですよ。」
「それ、本当ですか?」
「はいはい、本当です。URLを教えますので見てみますか?」
「もちろんです!」

それまでも、どこかの不動産業者が、競売情報をネットで公開しているのは知っていた。しかし業者によって抜粋された情報なので、どこまで詳細な資料なのか判断がつきにくかったのだ。ところが、今回うっしーに教わったのは、全国の主要都市の裁判所がひとつのサイトに情報開示するものである。これはかなり期待できそうだ。

そのサイトは『不動産競売物件情報サイト(BIT)』といって、誰でも簡単に、競売3点セットを閲覧することができる。競売3点セットというのは、さっき裁判所で、他の閲覧者と奪い合うようにして探した資料のことだ。競売物件に関する詳しい情報が30ページ程度のファイルにまとめられている。

物件の所在地、マンション名、広さ、間取り、築年数、痛み具合、建物の外観写真、室内の写真、現在人が住んでいるのか、それとも空き家なのか。住んでいるとすればどんな人物か?などを裁判所の執行官が綿密に調査している。次に、その物件の評価人である不動産鑑定士が、所在地は駅から何メートルで、周囲は商業地か住宅地か。今後発展しそうな場所か衰退しそうか?などを考慮して、土地や建物の価値を客観的に判定する。

その後、『競売ならではの値引き』をして、最終的に最低売却価額(入札する際の最低ラインの価格)を決定する。最低価額決定までの過程が全て明らかにされている。

3点セットには、それら物件に関する情報と、最低売却価額が書かれているのだ。入札する人や業者が知ることのできる情報はそれが全てだ。3点セットに書いてある情報を読みこなして、入札するかしないか、いくらで入札するかを決定しなければならない。つまり3点セットを上手に読めるかどうかで、物件の価値の見極めの巧拙が決まるのだ。
★百聞は一見に如かず
私は自分が書いたメモを読み上げた。

「フレ○ション大分。JR大分駅から徒歩15分。バスなら1駅。バス停から3分。周辺は閑静な住宅街で環境良好。大通りまですぐだが、1本奥なので静か。国土交通省宿舎、保育所隣接。徒歩3分に大型スーパーと大型PC専門店。徒歩4分に内科、歯科、教会、和裁学校。徒歩5分に公園。室内はフローリング、エアコン付き。東向き、オートロック、管理人室あり。自転車置き場あり。1K、押入れ1間分あり。バス・トイレは別タイプ。管理会社は東○コミュニティ、担当の○藤さん10月20~21日は福岡出張。管理費4300円。修繕積立金5380円。以上です。どうでしょう?」

「なるほど。なかなか良さそうじゃないですか。」とうっしー。
「ええ、そうなんですよ。でもね…隣にある公務員宿舎とずいぶんくっついて建ってるんです。ベランダ同士が向かい合ってるような感じで見晴らしは良くないようです。それと、建物の色がびっくりするような変な青色です。」と私。

「う~ん。そうですか。ところで、郵便受けはありますか?」
「ありますよ。目の前に。それが何か?」
「何個ぐらいありますか?」
「えーと、9×8階で72個あります。」
「72部屋あるってことですね。それじゃあ、チラシがいっぱいになってる郵便受けは何個ありますか?」
「は?チラシ?1,2,3…8個はチラシでぎゅうぎゅうです。」
「72部屋のうち8部屋が空室ってことですね。うーむ…。」
★裁判所初体験
ガラス貼りの閲覧室。壁一面の本棚に格納された紙製のファイル。
背表紙には「平成16年(ケ)○×号」と書かれている。平成16年はわかるが、(ケ)とは一体何の意味だろう?室内には難しい顔で調べ物をしている男性がひとり。スーツではなくスポーツシャツを着たパーマ頭は、どう見てもサラリーマンではなさそうだ。

私は大分市内で手の届きそうな物件を探した。あったあった。最低売却価額182万円のワンルームマンション。わかったような顔でファイルをぱらぱらめくってみても、土地の図面や計算式だらけでさっぱりわからない。意味がわかるのは、せいぜい間取り図と室内写真ぐらい。
先の男性は、私がどんな物件を見ているのか気になるらしく、チラチラと横目でこちらを伺っている。そこへ老夫婦が入ってきた。私と同じレベルらしく、わいわい言いながら、書類をひっくり返す。
男性は嫌な顔をして机の上に積み上げていたファイルを自分の方に引き寄せた。

だんだん疲れてきたので、目星をつけた物件の書類をコピーして、早々に退散することにした。室内に備え付けのコピー機がある。白黒が1枚40円。カラーが80円だったろうか。えらく高いなあと呆れつつコピー機の前に立つ。ファイルの中身をばらすと、A4の書類やA3の図面がごちゃごちゃになってしまった。欲しいページをコピーした後、大きさも向きも不規則な書類を正しい順番で戻すのは、難儀な作業だ。これでは裁判所の管理も大変だろう。せめてもう少しシステマティックにできないものか。うんざりして裁判所を後にした。

裁判所近くの、美術館の1階にあるカフェでランチをする。食後のコーヒーを飲みながらコピーした書類に目を通す。物件はここからそんなに遠くないはずだ。自分の目で現地を見てみよう。警察署の駐車場に停めていた車をそそくさと出して、大分駅近くの駐車場に停めなおす。駅のインフォメーションで周辺地図をもらい、時計で時間を見ながら東に向かって歩き出した。
早足で15分ほど歩くと、ようやく物件のある町の名前を見かけるようになった。バスの1区間は意外と長い。しかも、バスの運行は渋滞や風雨に左右される。大分駅からバスで1区間というのは一見良さそうだが、実はそんなに良い立地ではないのかも知れない。
裁判所の書類には、所在地は、バス停から徒歩3分と書いてある。
3分以内の範囲内をウロウロ歩くがなかなか見つからない。やっと見つけた時には、汗びっしょりだった。
★競売が先か起業が先か?
まずは競売物件を落札してキャッシュフローを確保しよう。しかし今までに株式投資で増やした資金を、全て不動産につぎ込んでしまったら、それから先は家賃収入の範囲内でしか生活できないことになる。こうなったら、何がなんでも自分の仕事を見つけなければ。

焦る気持ちに押されるように、あれこれ考えた。この地域で必要とされているものは?半農半漁の町だから、どこの家にも必ず仕事用の軽トラックがある。またこの辺りの若者は高校を卒業するとまず免許を取って、親か祖父母に中古の軽自動車を買ってもらうのが、ごく一般的である。

『軽乗用車と軽トラックに特化した中古車販売』。

これなら地域密着型でニーズを掴みやすい。それに、小資本でも何とか始められそうだ。
ところがこのビジネスモデルには、致命的な欠陥がふたつあった。
まず、私は軽自動車に乗ったことがない。乗ったことがないから、良し悪しが判断できない。車種の区別もつかない。しかも私はメカ音痴。車に対する愛着もこだわりもない。修理どころかタイヤ交換もできない。修理は外注できても、知識がなければ話にならない。
ここまできて、ついに私は「無理」という判定を下した。起業するには、好きなことでないと続かないだろうということを実感した。

ある日私は、用事のついでに大分地裁に出かけてみることにした。
いつまで講釈を垂れていても始まらない。まずは行動を起こそう。
裁判所の駐車場らしき構内に駐車する。外に出てわかったのだが、そこは大分県警の駐車場だった。まあいい。駐車禁止とは書いてない。たむろする白バイ隊員たちに会釈をしてみる。怪訝な顔をされたが、気にしない。
★謎のブローカー、うっしー。
ネットで知った謎のブローカー。恐ろしいが、今の私には必要だ。
抑揚のない文面から察すると、60がらみの気難しい男性だろう。
怖いもの見たさで「私でも競売に参加できますか?」と書き込んでみた。すると、あっさり「できますよ。」という。競売ってそんなに簡単なものなのか?

当時の私には、競売の他にやるべきことがもうひとつあった。これからどんな仕事をして生活するのか方向性を決めるということだ。
どこかに就職するという気持ちはない。自分で事業を興すならば、何か特別な自分だけのノウハウか、専門的な資格かどちらかが必要だろう。しかし、取りたい資格もない。

それにしても、私にしかできない仕事なんてあるんだろうか?折も折、友だちが栢野さんの起業セミナーを主催するという。そういう場に身を置けば、良い刺激を受けられるかも知れない。私は早速、参加申込みをした。

驚いたことに、例のブローカー氏も参加するという。一石二鳥だ。
セミナー会場は別府温泉の古い集会所だ。会って驚いた。意外にもさわやかな好青年だ。それがうっしーこと、タウントラスト牛嶋氏との出会いだった。

「競売に参加したいので、その節はよろしくお願いします。」と、挨拶する。「えっ、本当にやるつもりですか?」うっしーは呆気に取られているが、とにかく道筋はついた。

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